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日々のタワゴト                  

<そうなん【遭難】>p.1399



 夫は仕事柄、遭難者を探す羽目に陥ることがよくあります。以前住んでいたところは四方に山があったので、山菜シーズンはもちろん冬も出動することが珍しくありません。きわめて原始的に見える竹の棒をザクザクと刺すという方法での捜索で、死体を見つけたこともありました。

 ニュースで「××で山菜取りに出かけたAさん76歳が、昨夜から行方不明・・ 」と聞くと(じーちゃん一人で山入っちゃ駄目だって・・・)と思うのです。しかし・・・。

 ある晴れた秋の日、夫婦でキノコ取りに出かけました。笹薮を越えた落葉松の林の中で落葉キノコを探していました。キノコは枯れ葉の下からちょこっと顔を出すものなので、自然視線が低くなります。そのヤブ睨み的姿勢のままで、獲物を求め何処までも突き進んでしまいます。

 (あれ、結構時間が経っちゃったな)一旦車に戻ろう・・・と思い、道路の方を目指して進めど進めど出ることができません。あちらか、こちらかと焦って歩く歩く。かなりの距離を歩いたのに皆目わかりません。

 半べそで、一時間ほどさまよっていると、

「花子(35歳仮名)〜〜〜!!」と叫ぶ夫の声が遠くから聞こえます。

自慢じゃないが、丸一日声を聞かない日のほうが多いような夫です。名前を呼ばれたことも特殊な状況でしかありません。その夫が・・・あんなにも真剣に大きな声で私の名を呼んでいる。感激でした。(って愛を確認してる場合じゃないって。)

 かくして遭難者になることはまぬがれました。

 迷宮入りの事件を、真実は藪の中と言ったりしますが、藪の中というのは本当に捜しようのない怖い世界です。