慈雨と解放感
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0530出発 若女将の言う通り荷物を置いて参拝用品のみショルダーに入れて出る。
玄関を開けると雨が。引き返し雨具を身に付け出直す。
30分以上歩いたところでトンネル手前遍路小屋。雨脚も強くなり雨宿り。ショルダーバッグをレジ袋に入れ縛る。朝のうちにそうすべきだった。すっかり濡れている。心細い。
少し待ったが止む気配はないので歩き出す。宮田珠己じゃないがトンネル怖い。ヘッドランプ点滅、反射腕輪点滅で歩く。あのゴゴゴゴーーーっ!が迫ってくるのは大丈夫と思っても冷や冷やする。
濡れて歩くのは気持ち悪いが、それも最初だけ。渦中においては、それが常態。歩く。また歩く。暗闇から徐々に藍色になり空が白む。ありがたい。
まだか。まだなのか。十数キロなのだが、長く感じる。雨、暗さ、ぐにゃぐにゃ道という不安要因のせいなのだろう。
国民宿舎古岩屋荘前の休憩所到着。工事関係者らしき男の人たちが5~6人雨宿りしていた。挨拶を交わし、まずはトイレ。そして地図の確認。雨だと地図を見るのもままならない。ここから遍路道があるのだが、この天気なので国道を行く。残念だ。自分の選ばなかった道が良い道だったのでは・・・というケチな未練がヨギル。
雨が強いので、打ち捨てられていた傘を借り、さしながら、長い長い階段を上った。ここは、岩屋寺の名のごとく、まさに岩の中にめり込んだように本堂が建っている。岩に籠り修行したといわれる場所ももの凄い位置にある。
このような逸話は伝説であってどこまでが真実なのかはわからないが、後世の人を「すげっ!」と思わせるに充分な何らかの要素があるのは確か。弘法大師の空気を感じる。そして、とうとう雨に見舞われたことにも、どこかホッとしている。どこかで、連日雨の中を歩くお遍路さんもたくさんいるのに、自分ばかり楽をしてはいけないような、気がしていたから。心の荷物を下ろした。
雨は静かなものに変わり、長い階段を下りて来た道を戻る。明日のために少しでも先に進み宿をとる予定だったが、今夜も荷物を預かった昨夜の宿に連泊しようと心変わり。荷を取りに戻って歩くより、このままいけるところまで行くほうが良いように思えた。今朝、真っ暗な中歩いた道のりをそのまま戻る。あんなに遠く思えたのに、一度通った道というのは不思議に近い。まったく人間は気持ちの生き物だ。国道にぶち当たり、ここからは行けるところまでだ。
12:54 昨日、宿泊を断られた食堂入る。カレーうどんを頼む。澄んだお出しにうどんが鎮座し、その上にカレールーがかかっている。なるほど。
おいしくいただいて、13:29 店を出る。
濡れた靴の中でふやけた足がグズグズしている。どうも右足の親指と人差し指の間がおかしい。きっと皮がむけている。足裏も痛い。ともかく前進前進また前進。
くたびれてベンチを探していたら、ベンチのある小さなタバコ屋さんがあった。
やさしそうなお婆さんが出てきた。お決まりの「どちらから?」という会話から始まり、道を確認する。今日は46番への分岐点六部道というバス停まで行くことにした。そこには休憩所もあるし、ゆっくり宿に戻るバスを待つことができるだろう。
途中で宿に電話すると、昨日の洋室はなく、和室になってしまうが…ということだったが泊まれることになった。やっぱり、見知らぬ新しい宿を探すより安心な機能の宿にしたあたり、守りの姿勢になってきているのか。本来の山師精神、一か八かの姿勢を失っている。。。
バスで宿のそばまで戻る。存外バス代が高かった。お部屋は、妙にだだっ広いところだったが、大きなお風呂で体を休め、洗濯もして帰る準備ができた。夕飯の時、大女将さんと、雑談。若くて歯切れの良い女将さんは娘ではなく嫁さんで、一粒種の孫娘にどうしても甘くなってしまう話など。便乗して、私も
「一歳の孫にバーバって呼ばれると、もうもうとろけちゃいそうになりましてねぇ」などと、孫バカぶりを披露したり。
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今日は朝食も摂り、ゆっくりと八時前に宿を出た。バス停から昨日歩いたところまでバスで向かう。15分程乗って六部道より歩き始める。遍路道の入り口は朝靄に包まれた杉木立の中。修験者がいそうな光景だった。ツイートしたら、某先生が天狗がでるかもしれない・・・なんていう。た・し・か・に!
天狗さんに逢えたら、何をお願いしたらいいかな。なんて妄想しながら昔の道を歩く。案外早くに天狗さんに逢えそうな木立は抜けて里の道になった。坂本屋という復元された昔の遍路宿にて休憩。坂の上の雲のプロデューサー?のブロンズ像は、ちょいとひょうきんな顔で好感を持った。多くの銅像は、皆偉そうな顔をしていていけない。
やっぱり青空の下を歩くのは気持ちが良い。
11時半浄瑠璃寺に到着。ばんざーい。ばんざーい。
今回の目標は達成だ。あとは今日は、もう温泉に入って飛行機。
仏足石、に靴を脱いで立ってみる。健脚祈願。
納経して、道後温泉への交通機関を訪ねると親切に教えて下さった。お寺を出て少し行くとバス停で、十数分後にバスは来る。良かったよかった。
駅でバスを乗り換えて道後に向かう。坊っちゃん列車には乗らなかったが見かけることはできた。
今の人間にとって観光地を訪れるというのは、記憶の確認的なものになってしまっている。それでも、アノ道後温泉を直に見られたのは良かった。二階に上がり、籠に荷物を置いて風呂。お茶と茶菓子をいただいたら見学。説明するオッサンが偉そうで、質問者に「今これから説明しますから!」とか言っていてムカムカした。何千回と繰り返されたであろう冗談もいらなかった。それでも1200円払って中を見学しないことには意味がない。天皇陛下のトイレの説明を聞いて、あの韓国映画そのものなのだな・・・うんこもシッコも裸も人にさらされる大変なご身分だ。まったく気の毒だ。と思う。
温泉にはビールがないので、すぐ向かいの地ビール屋さんに入る。鯛めしセットは重いのでハーフとか単品がないか尋ねると、鯛茶漬けをお勧めしてくれた。それと、鶏皮でマドンナというビールを頼む。次に坊っちゃん、それをカッパがして、ノボさんと三種制覇。
隣の席に座った出張の男二人組が漱石らについて話していて、それが興味深かった。聞き耳を立てつつビール。やはり酒は語りながら飲むもんだよな。と一人がさみしくなる。近くの席に旅人らしき青年がひとりでオドオドと座っていたのを見て、誘いそうになってしまった。アブナイアブナイ。
案内所で、あのアーティストと温泉のコラボ企画について尋ねると宿泊しなくとも見学ができると判明。早い時間で終わるので、これは是非とも次回に来た時に見なくては!と張り切る。全部見たいけど谷川俊太郎と草間彌生の部屋が特に見たいな。隠れ弥生ちゃんを探すの楽しみだ。
そして、次回への希望とこの旅完結の安堵を胸に一路空港へ。成田へと飛ぶ。悩んだけれど、500円分のバウチャーは、やっぱりビールセットにした。本を読みながら、やる。どこまでも自堕落。これでいいのか?いいさいいさ。と思いながら飲む読む。