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日々のタワゴト                  

老嬢の物語

なんと言ったらいいのだろう。煤けたペパーミントグリーン?のお買い物カートのようなもの、こいつに百部に満たない夕刊を入れコロコロ引っ張って歩くのです。それが新しい仕事午後の部。人が歩いている時間帯で、ホームレス化の予行演習のような体裁でもあり、生来の自虐志向を充分に満足させる状況です。蔑まれる感じというのは存外優越感を覚えやすい設定でもあります。肉体労働を主体に仕事を探しあぐねていたけれど、本当はゴミ収集車なんかもやってみたいリストの上位でした。あの焼鳥を串に刺す仕事をしていた車谷さんなんかも、そういうところがあったのではないかと邪推します。これは、おそらく随分とねじくれた高慢稚気なのかもしれません。ともかく、そうやってコロコロと車を転がしながらトコトコ歩くのは適度にしんどく気持ちの良いものです。どしゃぶりの暗黒の日などは+と−の両方の意味で心底堪らないことでせう。一日に一万歩程あるくことになりそうです。「この間まで十年くらい配達していた八十四〜五のおじいさんが居ましたよ」とも、聞きましたので、知らず知らず脂肪も雑念も燃焼できて、いつか理想的な老女になれるかもしれないと期待しているところです。干し過ぎた干物のごときカンカラカン。空っぽ闇の音がする。