前項略。
タバコを加工した嗜好品。葉を乾して発酵させ、葉巻・巻煙
・刻み煙草・嗅煙草・噛煙草などとしたもの。
〈毛吹草4〉。「三遍まわって―にしょ」
* * * * *
一年生で引っ越していった家は、元が割烹カッポウの店であり、玄関の
横には煙草屋が付いていた。
ガラスケースに入った、色とりどりのタバコは珍しく飽かずに眺めては
「これはなに」「あさひ」
「これは」「スリーエース」
「これは」「ききょう」
「これは」「ロングホープ」
「これ」「富士」と覚えていった。
何より楽しいのは出窓風になった売り場の右側にズシンと置いてあるレジスターである。ちゃんと金額も打てた筈なのに、レシートロールはセットされていなかった。キーを二つ打つと「ジャリーン!」と、お金を入れた部分が跳び出してくる仕掛けだ。
始めは、それをやりたくてやりたくて。窓口にお客さんがくると姉妹で争ってレジに群がったのだった。
「ゴールデンバット下さい」
「はい三十円です。ありがとうございました」
ジャリーン!にこにこ。ガシャン。楽しくて仕方なかった。なんだか大人
みたいだし、すまして「ありがとうございました」
というのも、晴れがましいような気がしたのだ。
姉達は先に飽きた。いつも私が跳び出して行った。何年かたつと視線で牽制し合うようになった。
自動販売機が、まだ普及しない頃のはなしだ。