「背中」をお題にしようか・・・と決めかけた矢先に、この言葉を見つけた。“せどり”とは、古書業界の用語で、掘り出し物を探しては、安く買ったその本を他の古書店に高く転売することである。
私が、このあまり一般的ではない言葉を知ったのは『ふるほん文庫やさんの奇跡』(谷口雅男 著・ダイヤモンド社)や出久根達郎の本を通じてだった。
今、辞書の中からこの語を拾って見てびっくりした。“せどり”とは、本の背表紙を眺めながら、取るということだと思いこんでいた。
競り取ると言う意味があるのか、と膝を打ち、更にもう一つの“糴”の字である。はて?一体この字は・・・。
この字をバラバラにすると、入・米・羽・隹である。新字源を取り上げ、部首名“羽”から探す。も、見つからない。が、羽の下に隹がついた字には、はねる(→跳躍の躍)ぬきだす(→抜擢の擢)あらう(→洗濯の濯)などの意味があることは分かった。ははあ。
ならば、と米部から引くとやっと出た。読みは音のテキしか載っていないが意味としては(穀物を買い入れる意を表す)と載っている。
総合して考えれば本を抜き出し買い入れることとなろう。
この、語意だけでも訳の分からぬ“せどり”がタイトルになっている本がある。梶山季之の『せどり男爵数奇譚』である。(この本との出会いを作ってくれた響子さん元気ですか?)
古書を買い入れ転売する事を生業とする、せどり男爵こと笠井菊哉氏が出会う事件の数々。古書の世界に魅入られた人間たちを描くミステリー。
そう言えば、長らく絶版だった、この本が最近「ちくま文庫」から出た。私の手元にあるのは、古書店から購入したもので昭和58年版の河出文庫であるが、数ページおきにインクが薄くなっている。是非もう一冊買い求めておこう。
本書は、第一話 色模様一気通貫
第二話 半狂乱三色同順
第三話 春朧夜嶺上開花
第四話 桜満開十三不塔
第五話 五月晴九連宝燈
第六話 水無月十三公(の逆ノ抜き)九
の六話からなっている。
続きは、またいつか。