弘法大師も地団駄
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午前六時、精算をして宿を出る。美人女将よ、さようなら。ここでも、いつかまた…。という言葉が口をつく。本当にそう思ってる。内子座に何かかかっている時に訪れたい。
道は暗い。ヘッドランプを点けて、腕には点滅腕章。黙々と歩く。ラジオを聴いているし怖くはない。しばらく行くと積雪凍結注意の電光掲示板。それを撮ったら吹雪のように映っていた。
今日は余計なことはしないで、一心に歩こう。ヒワタ峠を越え35kmの行程なのだから。
ガシガシハイペースですすむ。歩幅が大きくなり過ぎると股関節が痛くなるがお構いなし。気がついたら、女将さんが教えてくれた製麺所を兼ねたうどん屋さん「なみへい」。看板を見たら開店11:00かー!まだ10:40だ。だが調理場に灯りがついている。駄目元で声をかけてみた。「すいませーん」奥から奥さんが出てきた。「まだ、うどんダメですよね?」
「うどんはねー。まだ出来てないの。」と冷蔵庫を開け「そばなら」というので肉蕎麦。旨し!けど圏外なのでつぶやけない。
ストーブで炙ったお餅まで、出てきた。お接待。これがまた美味い。ジンセイイキニカンズ。土産用に三人前うどんを15発送してもらうことに。お出汁45個送ります?と聞かれ、膨大な荷物になるか?と15個だけに。
ひたすら歩く。へんろ道シールがほとんどない。道は、ドンドン細く寂しくなる。岩から染み出る水のせいなのか赤錆びた電柱が並んでいる。(この道が間違いで遭難しても、電柱の番号が分かれば警察探してくれるよね)いや違った。ケータイ通じないんだった。さっき休んだ小屋で見た行方不明者のビラが頭に浮かぶ。表示の少ない道では常にこうした不安が過る。(ま、なるよーになるさ)そう鼓舞して歩くしかないのだ。
やっと、確かに道が合っていたと分かる。ここから本格的に山路。
文字が見にくいが「かみうねうね」だ。この名前を見てほくそ笑んでしまった。ウネウネだよ。うねうね道をうねうね登り、空から見たらアリンコが這っているよりもっと小さい自分を思う。で、空を見上げたら青空にネジネジの飛行機雲。
飛行物体落下か!
やっと、大寳寺まで6キロの表示。
電波が戻って宿坊に電話するとやっていないと言われる。また宿なしか。
明日のことを考えると、どうしても今日のうちに納経しておきたい。
こんな岩があって、弘法大師が地団駄踏んで我慢しながら歩いた様を想像して笑う。空海でさえ地団駄だ。私なんて、悔しくて痛くて鼻垂らして泣いたって当たり前の真ん中じゃないの。と安堵。いやいや、そんな余裕はないぞ。とグングンあるく。やっと見つかったトイレには雪が被っている。
用を足して走り出す。あと一時間ちょいで五時だ。とにかく納経処が閉まる前に。行かなくちゃ君(お大師様)に会いに行かなくちゃ。小走りしながら看板を見るが、寺まで何キロという表示がなく、久万町役場まで×kmとしかかかれていない。なんじゃこりゃ。誰があの山越えて徒歩で役場を目指すというのか。走って行くと人里になってきた。作業している小父さんに「この道真っ直ぐで大寳寺までいきますかー?」と聞くと走っている私に目を丸くしながら「このトイメンだから。そうだな30分位かな〜」と教えてくれる。しばらく行くと街に出た。まだまだ急ぎ足。下校の中学生に挨拶されながら、競歩のように上り坂を歩く。この荷物さえなけりゃな。どっかに投げて行こうか。うお〜〜と心で叫びつつ猛進。
無事に16:30到着。
ホッとしたが宿なし。電話何軒目かで確保。ガーデンタイムというビジネスホテル的ところ。
お疲れ様と迎えて頂き、お部屋にも風呂はあるが大浴場入れますよ。内鍵かかけてどうぞ!と元気ににこやかに。とても感じが良い。食事もできる喫茶店を兼ねているこの店に活気があるのは、この垣根のない人柄からか。と思う。
部屋に入り、今日も無事であった。と大きく息をつく。限界。と思ってから、いやいや、そんなことはない。余力がまだまだあるはず。間違いない。そう思う。明日は朝食なしで早くに出発だ!
アプリは57945歩 43.3km 8時間43分
歩数計は63538歩38.12km 498分(8時間18分)