■ 日 日 夜 夜 ■

日々のタワゴト                  

<しろ【白】>p.1228



 白は怖い。

 吹雪の中を一人で保育所に行ったとき、完全な真っ白に包まれ恐ろしくて泣きながら歩いた。親戚の家に泊まりに行ったとき駅から馬橇に載って行ったときも真っ白だった。橇を降りてから、腰まである雪を漕いで転げながら歩いた。

 白は空しい。

 答案を白紙で提出したことがある。分からなくてではなく、納得がいかないの意味で。試験監督の先生が教室を出ていってしまって、みんなはホイホイと喜んで誰かから回ってきた答案を写していた。今なら尻馬に乗って加わるに違いない。なのに中二の私は正義漢だったらしい。書いてあった答えを全部消して出したのだった。

 先生に呼ばれ事情を話すと「何も白紙で出さなくても自分だけが、見ないで提出すればそれで良かったんじゃないか?」 と言われた。結果的に他を責めたことを諫められたようでもあり、「問題」になってしまったことを恨めしく思っていたようでもあった。

 白は優しい。

 私が幼い頃、母はいつも白い割烹着を着ていた。私が鼻水をたらしていると、ポケットからチリカミを出して鼻をかまれたものだ。そのチリカミは新しいやつではなく、四つにおられた使用済みのものである。一枚(一組の)チリカミを二・三回使うのは当たり前の時代だった。

白は柔らかい。

 綿菓子、雲、石鹸の泡、綿、羽毛、おっぱい。

 白は神々(こうごう)しい。

 産着、ウエディングドレス、行者の衣、経帷子(きょうかたびら)。何かしら敬虔な気持ちを起こさせる色である。生まれたときも、死にゆくときも白に包まれるのだ。