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                      タワゴトです。

≪ 刺 身 ≫ 角川国語辞典 p.397



 鮪の刺身を初めて食べたのは小学校一年生のときだった。いとこの家に泊まった時、夕食で。

 私には珍しい椅子式の食卓テーブルの向こう。叔母はせっせと夕餉の支度を整えていた。食べもの屋を営んでいた我が家から見ると、随分狭苦しく感じられた官舎の台所で。

 こどもの好みそうな卵焼きや切れ目の入ったウインナ−が次々と、お皿に盛られた。お味噌汁も盛られ最後にペラペラの桃色の包装紙に包まれた何かが登場した。

 叔母は恭(うやうや)しいといって過言ではない面持ちで、包装紙を開けた。何かが経木に包まれていた。それと同じ色の紐が解かれ、開くと血の色のものが出てきた。

 鮪の刺身であった。(どうしよう)と万事窮すの心境。しかし、いとこたちは(わーい)とばかりに目を輝かせている。

 腹は括った。“楽しい”食事が始まった。しかし、食卓の中央には一枚の皿に件の真っ赤な刺身。いとこ達は嬉々として食べている。

 私は卵焼きや煮物、ご飯でお茶を濁していた。そうこうするうち、私はおかずを落としてしまった。叔母は「あらあら!カニさん落としたのかい?」と優しく問う。

 私は(えっ?)とばかりにキョロキョロした。(カニなんか、おかずに出てたっけ?)と思い「違うの。ソーセージ・・・」と答えてしまった!

叔母は怪訝な顔をして、それを拾った。

 困ったような顔で

「これカニさんなんだよ。」だって!!

何と言うことだ!!よく見るとその切れ目は、×の入った甲羅と、何本かの脚に見えないこともないじゃないか。嗚呼、南無三!

 私は、そんな見立て方のルールは知らなかった。(おばちゃん、ごめん)とも言えず空気は淀んでしまった。

 しばらくして叔母は一向に刺身に手を出さぬ私を見て、遠慮していると思ったらしい。「これこれ」といとこ達を嗜めた。

「そんなに、お刺身ばかり食べてたら××ちゃんが手を出しにくいでしょ」

・・・・。

 これは“おもてなし”なんだ。ここで食べなきゃ・・・・と感じた。こわごわ手を出し一切れを口に入れた。

ぬるーっとした気持ちの悪い感触があった。無理やり頑張って飲み込んだ。辛かった。その後は記憶にない。

 あれから幾星霜。今じゃ好物は寿司である。何はなくても寿司である。

今日は、あさのあつこ著『The MANZAI』途中だが、泣ける笑える。藤山寛美の世界。